昨年の11月以来、喫緊の課題への対応に忙殺され、「学長室から」を執筆する時間が取れませんでしたので、しばらくお休みをいただいていました。この間に、新型コロナウイルス感染症の第8波も、幸い収束してきましたので、卒業式・修了式、入学式は従来の方式で開催できる見込みです。
5月8日からは新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、現在の「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行することがすでに決まっています。また、卒業式等を控えて、3月13日からはマスクの着用も、個人の判断に委ねられることになりました。そうは言いながら、小・中学校・高等学校の卒業式におけるマスクの着用については、文科省初等中等教育局から事細かな指示が出ています。感染法上の取り決めと、医学的な感染防御措置であるマスクの着用は、連結して論じられるものではなく、全く次元の異なる問題です。これについては、もう一つの「学長室から」を準備していますので、改めて取り上げます。
今回の「学長室から」は、2023年度の新入生を迎えるにあたり、新たに大学生活を始める新入生に「大学で学ぶことの意味・意義」を考えてもらうための取組みについてです。4月3日から予定されている新入生に対するオリエンテーションでも、最も重要な項目の一つです。
学長就任以来、図書館からの依頼で、隔月程度の間隔で推薦図書を紹介してきたことは、皆さんご存じと思います。1月末に次の図書を推薦する機会がありましたので、私からの推薦に留まらず、14学科の学科長にも協力をお願いして、大学で学ぶことの意味・意義を考える上で、各学科の新入生にぜひ読んで欲しい「この1冊!」を挙げていただくこととしたところ、以下のようにさまざまな興味深い図書が推薦されてきました。新入生だけでなく、教職員の皆さんにも、新入生をサポートする上で役立つと思います。
1)PT椿学科長推薦
戸田山 和久:「教養の書」筑摩書房 2020/2/28
外山 美樹:「勉強する気はなぜ起こらないのか (ちくまプリマー新書)」筑摩書房 2021/4/8
2)OT大山学科長・副学長推薦
上田 紀行編著:「新・大学でなにを学ぶか(岩波ジュニア新書)」岩波書店 2020/2/20
池上 彰、上田 紀行、伊藤 亜紗(著):「とがったリーダーを育てる-東工大「リベラルアーツ教育」10年の軌跡(中公新書ラクレ738)」中央公論新社 2021/8/6
3)ST大石学科長推薦
星 友啓(スタンフォード大学オンラインハイスクール校長):「スタンフォードが中高生に教えていること(SB新書)」SBクリエイティブ 2020/12/5
4)AP粕谷学科長推薦
森岡 毅 (著):「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? (角川文庫)」 KADOKAWA 2016/04
5)CO前田学科長推薦
渡辺 和子 (著):「置かれた場所で咲きなさい (幻冬舎文庫)」幻冬舎 2017/4/11
6)EM竹井学科長推薦
高根 正昭(著):「創造の方法学 (講談社現代新書)」講談社 1979/9/18
7)RT児玉学科長推薦
永守 重信 (著):「大学で何を学ぶか (小学館新書 434)」小学館 2022/9/29
佐藤 望(編著):「アカデミック・スキルズ(第3版)-大学生のための知的技法入門」慶應義塾大学出版会 2020/2/14
8)HN永井学科長推薦
タラ ウェストーバー , 村井 理子翻訳:「エデュケーション 大学は私の人生を変えた」早川書房 2020/11/17
9)HS佐藤敏郎学科長推薦
森川 友義(著):「改訂版 大学4年間で絶対やっておくべきこと なんとなく卒業しないための50のルール」KADOKAWA 2019/3/4
10)NR宇田学科長・学部長推薦
近藤 克則:「健康格差社会 第2版: 何が心と健康を蝕むのか」医学書院 2022/6/20
中西 睦子:「異端の看護教育: 中西睦子が語る」医学書院 2015/7/9
11)佐藤大輔研究科長推薦
外山 滋比古:「思考の整理学 (ちくま文庫)」筑摩書房 1986/4/24
梅田 悟司:「「言葉にできる」は武器になる」日本経済新聞出版社 2016/8/1
12)大西学部長・副学長推薦
池谷 裕二 (著):「脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? (新潮文庫)」新潮社 2010/5/28
13)西原学部長・副学長推薦
田坂 広志 (著):「深く考える力 (PHP新書)」PHP研究所 2018/2/15
山鳥 重 (著):「「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学 (ちくま新書)」筑摩書房 2002/4/1
14)学長推薦
上田 紀行編著」「新・大学でなにを学ぶか(岩波ジュニア新書)」岩波書店 2020/2/20(大山副学長の推薦と同じです)
池上 彰:「なんのために学ぶのか (SB新書)」SBクリエイティブ 2020/3/6
福澤 諭吉, 斎藤 孝翻訳:「現代語訳 学問のすすめ (ちくま新書)」筑摩書房2009/2/9 (原著は福沢 諭吉:「学問のすゝめ (岩波文庫)」 岩波書店改版 1978/1/17)
出口 治明(著):「出口版学問のすすめ」小学館 2020/11/2
現在のリストは以上ですが、皆さんからも新入生に「この1冊!」として推薦したい図書がありましたら、ぜひお知らせください。今後リストに加え、より充実した内容にしたいと考えています。
コロナ禍が始まって3年を経過しました。今回入学してくる新入生にとって、3年間の高校生活はどんな状況だったのでしょう。授業はオンラインに振り替えることができたとしても、人間形成にとって重要な対面での課外活動やボランティア活動は、従来と同じ程度に実践できたのでしょうか。本学では、昨秋の前半入試で合格した人たちを対象として1月初めに実施された「スクーリング」の参加者が、例年よりも減少しました。不参加者の中から、新学期早々に脱落する人が出てこないでしょうか。もしも大学で学ぶための準備に十分でないところがあるとすれば、大学全体で早期から対策を用意する必要があります。
対人接触の機会が少なかったために、ホームシックになってしまった学生さんが本学でも複数います。新型コロナウイルスに対してハイリスクの人たちが身近にいますので、こうした人たちに対する「利他の心」を、本学学生の皆さんにはぜひ持って欲しいです。しかし、コロナ禍を恐れて、社会活動を控え過ぎることによる弊害も、最近は指摘されるようになりました。対人接触が少なくなった認知症高齢者の症状が進行してしまったという報告があります。長い間マスクを着用してきたことで、児童の成長に影響が及んでいるという指摘もあります。漸く新型コロナウイルス感染が収束してきた今、このようなさまざまな視点からの検証が必要であり、是正すべき点は速やかに、今後の対応に組み入れて行かなければなりません。
本学はコロナ禍以前より、理事長から「メディア教育を極める」ようにご指示をいただいていることはご存じの通りです。新学期からは、新型コロナ対策としてのメディア授業は終了する方針で、原則として従来からの対面授業に戻ります。保護者からは対面授業を希望する声が圧倒的ですが、本学は学科も多様・多彩ですので、対面授業も、オンラインやオンデマンド授業も、その教育効果は一様ではありません。引き続き、各学科単位で授業効果を検証し、教育効果を高めて行く作業が求められます。
本学で卒業時に取得できる国家資格は、専門学校でも取得することができます。であれば、大学を卒業して資格を取得することの意味を説明できなければなりません。本学で学ぶことにより、専門学校では得られない、どのような「付加」価値を身につけることができるのでしょうか。本学は14の学科が連携して、文字通りワンキャンパスで活動していますので、保健・医療・福祉・スポーツのあらゆる分野で、多職種の専門職と連携する力を涵養できることが最大のメリットであることは言うまでもありません。
次年度からは、各学科で定めたDPへの到達度を年度ごとに評価して行くことになります。各学科でまず、「大学で学ぶことの意味・意義」を考える機会を設け、節目ごとに学生の到達度を評価してください。指標としてはGPAを用いることが多いかもしれませんが、GPAはある程度大学での授業が進行しないと出てこない数値ですので、高校でのGPA、スクーリングの評価、新学期始めに実施されるプレイスメントテストの結果などを参考にしながら、1年次前半の授業を進め、この段階での脱落を防ぐ必要があります。各学科でそれぞれ、本学で学ぶことによる「付加」価値を高められるような教育に取り組んでいただきたいと思います。宜しくお願いいたします。