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2022.08.01

学長室から~8月1日号~「感染第7波の中での夏祭り」

新型コロナウイルス感染症は再び急激に拡大し、感染第7波に突入してしまいました。オミクロン株BA.1、BA.2による第6波を上回る、これまでに経験のない規模の感染急拡大で、誰もがいつ感染してもおかしくない状況となっています。新型コロナウイルスが最も近くに迫ってきているといえるでしょう。

感染急拡大の原因は、最近まで流行の主体であったオミクロン株BA.2から、より感染力が強いBA.5への置き換わりが進んでいること、これまでのワクチン接種の効果が次第に減弱していること、例年よりも早い梅雨明けと猛暑のため、換気がしにくくなっていること、感染拡大防止と社会活動との両立を目指す欧米の対応に倣って、わが国の対策も社会経済活動との両立に舵が切られ、政府からの「行動制限のお願い」が緩み、人流が増加していることなどが挙げられています。

今年は6月下旬までの状況であれば、3年振りに行動制限のない夏休みを迎え、これまで我慢してきた旅行にも、ある程度は安全に出掛けることができるはずでした。実際、各地で夏恒例の行事が再開されており、祇園祭りの山鉾巡行は先日、中継で見ることができました。新潟でも7月7日には村上大祭「おしゃぎり」、26日にはぎおん柏崎まつり「海の大花火大会」が開催され、8月2、3日には長岡まつり「大花火大会」が予定されています。その一方で、5~7日に予定されていた新潟まつりでは、5日の大民謡流しは中止となり、7日の花火大会も9月末以降に延期となりました。BA.5感染の爆発的な広がりの中でも、予定通りこうした夏祭りを開催して本当に大丈夫なのかと、楽しみにしながらも、不安を感じる方も少なくないと思います。

厚労省の対策分科会は7月14日、第7波の拡大を受け、緊急の提言を行いました。少し長くなりますが、全文を紹介します。まず今回の提言の背景として、
① 2022年7月以降、全国各地で新規感染者の数が増加に転じており、多くの地域においては急速に感染が拡大している。
② BA.1系統が主であった我が国の第6波においては、これまでの流行の中でも死亡者数は最も多かった。また、救急搬送困難事案数も最大であった。
③ 世界的にみると、より感染性が高く、免疫逃避しやすいBA.4やBA.5系統が流行の中心になっている。BA.4やBA.5系統の重症化については明確なエビデンスがないが、置き換わりが先行している国々の中では、BA.1系統の流行と比較して同程度の死亡者数がすでに報告されている国もある。また、実験室での分析では、BA.5系統での重症化しやすい可能性も報告されている。
④ 高齢者の多くは、3回目接種から数ヶ月以上が過ぎており、免疫の減弱が起きていると考えられる。また、4回目接種は十分に進んでいない。一方、60歳未満のワクチン3回目の接種率が停滞しており、40歳未満においては3~6割に留まっている。(図参照)
⑤ さらに、夏休みや3連休もあり、接触機会の増加が想定される。
と現状を分析し、「「第7波」に対する実効性のある具体策を直ちに実施する必要がある」としています。次いで、今後生じ得ることとして、
①  BA.5系統の流行を通じて、急速に感染者数が増加し、これに伴い高齢者や基礎疾患を   
もつ方を中心に入院患者数、重症者数、死亡者数が増加する可能性がある。
② このまま感染拡大が継続すると、高齢者施設や医療機関にも感染が波及し、救急・通常医療も含めた医療や、介護への負担がきわめて大きくなる可能性がある。
③ 医療・介護従事者に感染が波及すると、医療機関・高齢者施設等での業務継続にも支障をきたす可能性がある。また、感染拡大の程度によっては、欠席者や欠勤者が増え、教育や社会機能の維持に影響がでる可能性がある。
④ 次頁に示すような取組をしっかりと行い、医療のひっ迫等の回避を目指すが、それでもひっ迫が生じる場合には、人々の行動や接触を抑えるような施策も選択肢の一つとなりうる。しかし、社会経済活動を徐々に再開しつつある我が国では、直ちにそうした選択肢をとることについて、人々の理解を得られにくいことも予想される。
を挙げ、「既に我々が学んできた知識をもとに、国民の皆様にはそれぞれが感染しない/感染させない対策を中心に、あらためて取り組むことが必要であり、そのために、国、自治体は、感染防止に向けた国民の取り組みを支援するような対策に加え、医療提供体制の強化について、これまで以上に取り組む必要がある。」、「上記の取組を確実に実施し、一般医療の制限や医療や介護の逼迫の回避を目指す。しかし、様々な対策を行っても医療の逼迫が深刻になった場合には、行動制限を含めた強い対策が必要となることもある。」とまとめています。そして、5つの対策として、
① ワクチン接種の加速化
② 検査のさらなる活用
③ 効率的な換気の提言
④ 国・自治体による効率的な医療機能の確保
⑤ 基本的な感染対策の再点検と徹底
を挙げています。

全くもってその通りで、いずれも当然の対策なのですが、国や自治体の対策としては「行動制限は行わない」が独り歩きをしてしまい、この5つの取組みと一体であることが忘れ去られているのが問題なのです。
具体的な対策としてその後に実現したのは、濃厚接触者の待機期間を従来の7日間から5日間に短縮したこと(検査を行えば、さらに3日間まで短縮可としましたが、科学的根拠が疑問という指摘があります)と、4回目のワクチン接種の対象に、医療・介護従事者を加えたことでしょうか。さらに29日には、病床使用率が50%を超えた都道府県知事は「BA.5対策強化宣言」を出すことができるようになりました。その内容として住民に実際に要請できるのは、基本的対策の徹底、早期のワクチン接種、高齢者・基礎疾患保有者・同居家族などの感染リスクが高い場所への外出自粛要請、飲食店での長時間利用の回避、会話をする際のマスク着用、救急外来・救急車の適切な利用、テレワークの推進などですから、政府の対策が手詰まりであるのは否めません。
本学も含めて、積極的推奨にも関わらず、若年層における3回目のワクチン接種はあまり進んでいません。7月25日から3日間実施した追加接種でも、接種を受けたのは66名に留まっています。検査については、すでに医療提供体制が逼迫し始めている地域では、PCR検査も抗原定性検査も、検査キットが入手できず、検査ができない状況に陥っていると報道されています。換気については、わが国も漸く世界的に認知されているエアロゾル感染の対策にシフトしつつあるので、記載が追加されたところです。まだこの第7波にどう立ち向かうかという段階なのですが、すでに「感染が収束する見通しが立てば、コロナを一疾患として日常的な医療提供体制の中に位置づけるための検討を始める必要があるのではないか」と記載されていて、実際、首相は第7波収束後に検討すると発言しています。

こうした中で、7月24日のNHK日曜討論に登場した政府対策分科会の尾身茂会長の発言が注目されています。報道では、「従来までは国、自治体が国民にお願いし、国民が従うというフェーズだった。今は、いろんなことを学んできたので、一般市民が主体的に自分で判断して色々と工夫するフェーズに入った。このまま放っておくと、体力が低い、体の脆弱な高齢者の死亡者数は第6波を超える可能性がある。重症者数、感染者数、一般医療の制限をどこまで我々が許容するか、国民的なコンセンサスが必要だ。」と紹介されています。言い換えれば、感染対策は今や国民の自己責任であり、高齢者の中に、ある程度の死者が生じるのは、国民の許容範囲であれば仕方がないと言うのです。政府が世論の動向を推し量る観測気球なのですが、本音の発言でしょう。
「新型コロナはもはやインフルエンザ並みになった」ので、「感染法上の位置付けを現在の2類からインフルエンザと同じ5類にすぐに改めるべきだ」という主張も大きくなってきています。現在は「2類相当」とされていることから、感染者数が20万人に及べば、指定医療機関や保健所がその対応能力を超えて機能不全に陥ってしまいます。この点は速やかに是正が必要であることに異論はありません。一方で、5類に変更になれば、検査にも、ワクチン接種にも、相当な自己負担が発生することになります。そうなれば、医療にアクセスできない、あるいはアクセスしない人たちが増えることが心配になりますが、いつまでも国費で負担を続けることも難しいでしょう。ここは「新型コロナ類」という個別枠を設けて臨機応変に対応できるようにするのがよいと考えています。
そもそも論になりますが、感染症の専門家なのであれば、感染症を抑制し、インフルエンザであっても死者の更なる減少に努めなければなりません。インフルエンザ並みになったので、年間3,000人、4,000人の死者が出るのは許容すべきだという判断自体が正しくありません。人流の抑制と手洗い、うがいの励行などの感染防御対策によって、ここ2年間、季節性インフルエンザは流行していません。インフルエンザが抑制できるのと同様に、新型コロナも一層抑制すべき対象なのです。

政府の方針では、BA.5への緊急対策の必要性を指摘しながら、一方で社会経済対策を重視し、象徴的なイベントとして、各地の夏祭りを例年通り行おうとしていることになるのですが、ここで基本的な感染防御対策をもう一度見直してみましょう。
新型コロナウイルスは口と鼻と目から侵入します。これ以外の経路はありませんので、口と鼻をマスクで覆い、ゴーグルで目も守り、ウイルスの侵入を防ぐことになります。布製やウレタン製のマスクはウイルスが通過してしまいますので、最低限、不織布製のマスクを選ぶ必要があります。N-95マスクは性能が高く、望ましいのですが、呼吸が苦しくなる可能性があり、日常生活では実用的でありません。折角マスクをしていても、マスクと顔面の間に隙間があれば、ウイルスは侵入してしまいます。熱中症との兼ね合いで、戸外ではマスクをしないという対応を採用したばかりですが、BA.5の感染力を踏まえれば、自らが感染しないためにも、他者に感染させないためにも、マスクの装着を続ける必要があります。
3密を避け、他者との距離を保つことはウイルスとの接触機会を減らすことになりますが、侵入経路が口と鼻と目からであることを考えれば、口、鼻、目をしっかり防御すれば、単に集まること、接触することのリスクはある程度防ぐことができます。しかし、会食で口からの侵入を防ぐことは容易ではありません。感染者と対面して話をしながら会食すれば、まず感染してしまいます。座席が横並びであれば、感染者からの飛沫が自分の食べるものにかかる可能性は減らすことができます。BA.5の感染がピークを過ぎるまでは、家族以外との会食は出来る限り控えるのが望ましいとされるのはこのためです。家族で車を利用して移動する場合は、飛行機や鉄道を利用して移動する場合よりも、感染者との接触の機会は少なくできます。

現在のように感染が拡大してくれば、単に会合やイベントに参加するか否か、移動するか否かではなく、どのように振舞えば自分は感染しにくいのか、どのように行動すれば、他者に感染させるリスクが高まるのか、あるいはリスクを低くできるのかを考えながら、行動しなければならないのです。
若年者層では症状はごく軽いか、無症状といわれた感染第6波でも、感染者数が大きくなったために、高リスクとされる高齢者層にも感染が拡大し、1万人を超えるこれまでで最大の死者が出ています。第6波を大きく上回る第7波では、第6波以上の死者が出る恐れがあります。感染者が多くなると、医療機関で医療を受けられないコロナ以外の患者さんが増えてきます。医療機関で働く人たちにもコロナ感染が拡がり、少ない人数で対応せざるを得ない状況がさらに顕著になります。
出来る限り多くの人たちが、こうした視点をもって行動することが望まれています。

新型コロナウイルスの新たな変異株としては、BA.5だけでなく、同じく南アフリカで見出されたBA.4もヨーロッパで拡大しました。さらにBA.2.75、別名ケンタウルスというインドで見つかったBA.2の下位変異株も、WHOがVariants of Concern (VOC)に指定し、監視を強化しています。BA.5より3倍以上感染力が強いとされていて、わが国でも感染例が確認され、すでに市中に感染が拡大しつつあると考えられますので、第7波が治まらないうちに、第8波に突入する可能性が指摘されています。
新型コロナウイルスに次々と新たな変異が加わることによって、ヒトのACE2受容体と結合するスパイク蛋白のアミノ酸配列が変化し、その結果として感染力が増し、あるいは中和抗体との結合性が変化して、これまでの免疫を回避する能力が高まります。オミクロン株以降も新たな変異株の流行が新たなワクチンや治療薬開発のスピードを上回っている状況が続いています。秋にはオミクロン株に対応した新たなmRNAワクチンが登場するはずですので、その効果に期待したいと思います。

ここ1週間だけでも動きが多く、フォローしきれなくなっていますが、7月末までの情報を一旦まとめてみました。新たな情報が加われば、改めて皆さんにお知らせしたいと思います。

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