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2022.09.28

学長室から~9月号~「5つのSTEPS」英語訳の見直しに向けて

 本学の建学の精神であり、教育の第一の目標は、保健・医療・福祉・スポーツの分野における専門職(プロフェッショナル)として、多職種の専門職と連携し、クライアントのQOLを支え、地域包括ケアを実践する「優れたQOLサポーター」を育成することです。この目標を達成するため、STEPSと表記される5つの「能力」を身につけられるよう学則に定めています。STEPSは現在策定中である各学科のDPにも明記されます。
 5つの能力とは言うまでもなく、(1)専門的な知識と技量を身につける能力、(2)チームワークとリーダーシップを発揮する能力、(3)クライアントを力づける能力、(4)問題を解決する能力、(5)自己を実現する能力、を指しています。(1)Science & Art、(2)Teamwork & Leadership、 (3)Empowerment、(4)Problem-solving、(5)Self-realizationという英語訳が当てられ、その頭文字を採ってSTEPSとまとめられていることも皆さんよくご存じの通りです。
ただ、この英語訳は必ずしも身につけるべき「能力」として統一されていないことなどに、少し違和感がありました。これまでにも何度か担当の皆さんにお話ししてみたのですが、これを改定するとなると、学則から大学発の各種のパンフレットまで、非常に大きな作業になりますので、これまで二の足を踏んできたというのが実際です。この英語訳については、皆さんからもご指摘をいただいています。今回は英語訳の見直しに向けて学内の意見を集約し、必要となれば改定に進みたいと考えています。

 医の専門職medical professionalsとは、どのような専門性を身につけた人たちを指すのかについては、さまざまな考えがありますが、欧米ではArnold & Sternが2006年に発表した“Attributes of medical professionalism”がよく知られています。皆さんもこの図はどこかで目にしたことがあるでしょう。図に示すように、Clinical competence (knowledge of medicine)、communication skills、ethical and legal understandingからなる3つの基盤の上に、excellence、humanism、accountability、altruismからなる4本の柱が建てられてprofessionalismを支えています。当然、欧米の価値観・倫理観を色濃く反映したものですが、本学のSTEPSとも重なるところがあります。

 1番目のScience & Artはclinical competence (knowledge of medicine) とcommunication skillsに凡そ相当しています。医の専門職たらんとすれば、専門的な知識と専門的な技量を身につけなければならないのは自明のことです。加えて、本学が育成するQOLサポーターのように、地域で多職種の専門職と連携・協働してクライアントのQOLを支えるためには、そもそも「連携」ができねばなりませんし、連携するためには、2番目のTeamwork & Leadershipが必要な能力となることも改めて言うまでもありません。問題は、Science & Art、Teamwork & Leadershipを「身につけるべき能力」として、頭文字のSとTを残しながら、英語でどのように表現するかになります。
 3番目のempowermentは、一般的には権限付与・権限移譲などと訳されていますが、保健医療福祉の分野では、クライアントが本来持っている能力を発揮して生きていく力を引き出すこと、さらにはそのような公平な社会の実現を目指して活動することをも含む、独自の意味を持った言葉です。「クライアントをempowerできる能力」として、どのような英語表現が本学に最も相応しいでしょうか。
 4番目のProblem-solvingは「課題解決能力」として、5番目のSelf-realizationも「自己実現能力」として、それぞれ「能力」であることを明記したいと思います。5番目の「自己実現」にはself-realization以外にも、self-fulfillment、あるいはself-actualizationという用語もあります。本学に相応しいのはどのような表記なのか、皆さんの叡智を集めて検討したいと考えています。

 最後に、Arnold & Sternの図でずっと気になっているのがaltruismという言葉です。日本語では「利他主義」と訳されています。2022年3月の卒業式式辞では「利他」という言葉を取り上げました。2022年の入学式式辞では「共感empathy」を取り上げています。empathyという言葉については、ブレイディみかこさんの「他者の靴を履く:アナーキック・エンパシーのすすめ」(文藝春秋、2021年)を読んで大いに感銘を受けました。どちらも本学の教育理念の中に取り込み、生かして行きたいと考えている言葉です。STEPSの英語訳を見直すというプロセスは、本学の教育理念を改めて見直すことに繋がるのかもしれません。2030年の建学30周年に向けて、見直すとすれば最後の機会になるのではないかと思います。

 今後の具体的な進め方については、これから皆さんの叡智を集めてプロジェクトチームを結成し、原案をまとめていただきたいと考えています。メンバーの自薦・他薦を是非宜しくお願いいたします。

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