「学長室から」2021年7月号をお届けします。
教職員の皆様のご協力、ご支援により、7月5日から本学において新型コロナウイルスに対するモデルナ製ワクチンの職域接種が開始されました。7月26日に修了した1回目の接種では、何人かに軽度の副反応がみられましたが、概ね無事に終了することができました。新潟医療福祉大学がこの一大事業の達成に向けてワンチームとして行動するために、ご尽力くださった教職員の皆様に心から御礼を申し上げます。本学では救急救命士の皆様が接種後の健康観察にあたってくださったことが、他会場にはない、特筆すべきことでありました。接種を受けた皆さんに大きな安心を与えていただき、感謝しています。来週8月2日からは2回目の接種が始まりますので、引き続き宜しくご協力をお願いいたします。
これまでにも「学長室から」の2021年1月号や5月号、危機管理対策委員会が開催された度に学生・保護者に向けて発出した学長メッセージ、6月14日に発出した職域接種に向けたメッセージなど、多くの機会に新型コロナウイルス感染症やそのワクチンに関する情報を共有させていただいています。基本的な書籍やインターネットサイトも紹介していますが、この間に質問もありましたので、これらにお答えしながら、学内の意思統一を図りたいと思います。
1)本学は医療福祉系の大学なので、全員がワクチン接種を受けるべきなのか?
この質問に答えるために、わが国のワクチン政策について、繰り返しになりますが、改めて説明します。
わが国の新型コロナウイルスワクチン接種率は、最近まで「先進国」で最低レベルに甘んじていました。取組みが遅れた理由として、さまざまな要因が指摘されましたが、予防接種に対して厚労省が慎重姿勢を取り続けていることが一因として挙げられます。わが国では、流行性耳下腺炎ワクチン、インフルエンザワクチンなどの副反応、後遺症に対する司法の厳しい判決を受けて、厚生省(当時)は1994年に予防接種法を改正し、予防接種を義務接種から推奨接種に切り替えたのです。定期接種から任意接種になったために、各種ワクチンの接種率は低下しました。特に2013年、厚労省が子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を積極的に推奨することを中止して以降、わが国におけるHPVワクチン接種率は70%以上から1%以下に低下したままであるのはご存じと思います。
海外の状況をみると、フランスでは本年7月、医療従事者に対してワクチン接種を義務化し、9月からは接種しなければ解雇もあり得るとしたために、大規模な反対デモが起きています。米国では陸軍は義務化を検討し、またカリフォルニア州など、州によっては医療従事者に接種を義務付けるよう検討されています。ニューヨーク市では、9月の新学期から警察官や教員など市の職員に対して、ワクチン接種を受けるか、毎週PCR検査を受けるかを義務付けました。また全米で600以上の大学が、秋からの対面授業に出席するための条件として、ワクチン接種を義務付けていると報道されています。
2020年9月10日付けのLancet誌にロンドン大学から興味深い研究結果が報告されています。2015年から5年間に発表された149か国、290論文を調査し、18歳以上の約28万人を対象に、ワクチンへの信頼性(安全性・重要性・有効性)を国際比較したものです。その結果、ワクチンの安全性への信頼が最も高かったのは89.4%のアルゼンチン、86.1%のリベリア、86.1%のバングラデシュで、最も低かったのは8.1%のモンゴル、8.9%のフランスと日本でした。同様にワクチンの有効性への信頼が最も高かったのは86.6%のエチオピア、86.3%のアルゼンチン、81.9%のモーリタニアで、最も低かったのは10.3%のモロッコ、13.0%のモンゴル、14.7%の日本でした。ワクチンが有効であり安全であるので、自分の子供にワクチン接種を受けさせるという人の割合は、日本は世界で最低レベルでした。その理由として、調査直前の2013年に、上述したHPVワクチン接種が「副反応」により積極的推奨から外されたことが挙げられています。この厚労省の決定は国際科学コミュニティーからは評価されず、日本のワクチンプログラムは改善を要するとされています。
わが国のマスコミの対応は、ワクチンに対するこうした国民の意識を反映したものになりますから、ワクチンの重要性や有効性を説明する前に、副反応を強調しがちになります。今回も、ワクチン接種の開始当初は、急性の副反応が発生しているという報道が目立ちましたので、一人でも直接の死亡例が出れば、わが国ではワクチン接種がストップしてしまったかもしれません。
ワクチンは、病原体への感染を予防するため、さらに感染したとしても、発症を予防したり、重症化を予防したりするために接種するのですから、接種したからといって、すぐに「ご利益」が実感できるものではありません。ワクチンが有効であれば、よくないことは起こらず、普段と変わりはないのです。しかし、一旦副反応が出現すれば、直ちに「損をした」と認識されます。接種を受ければ、感染予防はできて当然で、副反応はあってはならないものと受け止められてしまうのです。
ワクチンには、今回のワクチン接種の対象外である小児や、感染すれば重症化しやすい高齢者を感染から守る、「社会を守る」という役割と、接種を受けた本人を発症から、あるいは重症化から守る、「個人を守る」という役割があることは言うまでもありません。さらに、これまでわが国ではあまり議論されていませんが、新型コロナウイルス感染症にはさまざまな後遺症が報告されています。味覚・嗅覚の低下・消失は半年後にも残り、なかなか回復しないために「何を食べても、食べた気がせず、つらい」という当事者の声が先日も報道されていました。ワクチンを接種すれば、こうした後遺症を減らすことに繋がります。
ワクチンの副反応が不安、心配なので、接種は見合わせたいという人たちが若い世代には多いので、こうした人たちには特にていねいな説明が求められます。筋肉注射局所の痛み、発熱、倦怠感、頭痛などは高い頻度で生じる副反応ですが、1、2日で収まりますので、心配はありません。しかし、こうした副反応がどのくらいの頻度で起こるのか、起きた時はどのように対応したらよいのか、どのくらいの経過で改善するのか、などの情報が当事者に十分届いているとは言い難いように感じます。
副反応の中で問題となるのは、個人個人の体質によるアレルギー反応です。今回のワクチンの何らかの成分に対するアレルギー反応を、事前に100%予知することはできませんので、何らかのアレルギー反応を起こした既往がある人たちは接種を控えた方が安全です。アナフィラキシーも救急対応ができれば心配はないという考えもありますが、職域接種の会場は救急病院ではなく、万全の救急対応はできませんので、敢えてリスクを冒す必要はありません。
それでは質問1)に対する回答です。
わが国では、上述の通り1994年以降、ワクチン接種は任意なので、接種を受ける、受けないは個人の判断に委ねられ、国が義務として強制するものではありません。今回の新型コロナウイルスワクチンも同様で、HPVワクチンの現状をみれば、厚労省は医療関係者、あるいは大学関係者に対象を限定したとしても、接種の義務化には踏み切れないと思います。ニューヨーク市のように市職員に対して、ワクチンを接種するか、毎週PCR検査を受けるかを選択してもらう方法も考えられますが、厚労省はPCR検査の拡大に依然として極めて消極的ですから、毎週検査を受けることはできないでしょう。アレルギー反応の既往がある人は、命に係わるアナフィラキシーが発生するリスクがありますから、接種を避ける必要があります。
副反応が心配なので、接種は受けないという個人の判断も尊重されます。しかし、組織に所属すると、接種を受けないという人たちが圧力や差別を受けるおそれがあることはすでに指摘されています。昨年の「自粛警察」と同じような動きが起きているというのです。逆に、接種を受けてはならないという指示が出ていた大手企業の事例も報道されました。
本学は医療福祉系の大学ではありますが、学生諸君が全員、学外の医療機関での実習に参加するわけではありません。学外実習では、受入れ先の医療機関からワクチン接種を済ませていることを受入れの条件と指定される場合が少数ながらありますので、各学科でやりくりをしていただいています。
本学における職域接種では、これから数値を改めて確認しますが、教職員の大凡73%が2回のワクチン接種を終了する予定です。全国の大学では、反ワクチン活動のために、全体の接種率が50%を下回るという大学もありますので、この数値は低くはないと思いますが、皆さんはどのように受け止められるでしょう。医療福祉系の大学なのですから、もう少し高くあって然るべきでしょうか。集団免疫の成立には、さまざまな仮定の上での議論ですが、中和抗体保有者が集団の大凡6割以上になる必要があるとされていますので、7割以上であれば当面は十分でしょうか。
本学では、不安なので接種は受けたくないという皆さんには、これからもワクチンの安全性・有効性について丁寧な説明を繰り返し、ワクチン接種への理解を深めていただくこととしています。ワクチン接種は任意であるという大前提の基に、学外の医療機関に実習に出る学生諸君には、アレルギー反応の既往がないのであれば、ワクチンの重要性、効果、副反応について理解した上で、ワクチン接種を受けてほしいと要望してきた従来の方針に変わりはありません。
2)ワクチン接種を受けたら、これまでの行動規制は解除できるのか?
ワクチン接種の会場で、「ワクチン接種を受けたので、これで安心」とインタビューに答えている人たちをよくみかけます。今回のファイザー製、モデルナ製ワクチンの接種を受けると、どれくらい安心できるのでしょう。これまでの行動自粛は必要なくなるのでしょうか。
まず、現状は「これで安心」とは言えなくなっているというお話から始めます。今回接種されたファイザー製、モデルナ製のワクチンは、世界で最初に流行したウイルス株のスパイク蛋白に対するmRNAを用いて作られています。その後に流行した英国型(α株)、さらにその後に出現して現在の流行の主体となっているインド型(δ株)を基にしたものではありません。ウイルスが変異を繰り返すたびに、現在のワクチンの感染抑止力、発症抑止力、重症化抑止力は変化する可能性があります。これまでの情報では、ファイザー製、モデルナ製のワクチンは当初95%、94%の感染予防効果を示しましたが、その後に登場してきた英国型やインド型に対しては、感染予防効果は低下しています。イスラエルからの最近の情報では、ファイザー製ワクチンのδ株に対する感染予防効果は39%に低下していました。
国民のかなりの割合がワクチン接種を終了しているイスラエルでも英国でも、新たなインド型の感染が拡大しています。米国でも、ワクチン接種を受けていなかった集団に、インド型が拡大していると報道されています。しかし、幸いなことに、現行のワクチンの重症化抑止力には変わりはなく、新規感染者数は増えても、重症者数は大きく増加はしていませんし、致死率の上昇もみられていません。このため、英国は7月19日から全ての規制を撤廃するという思い切った行動に出ています。
今回、職域接種でモデルナ製の、あるいは学外でファイザー製のワクチン接種を2回済ませた皆さんでも、現在国内で主流となってきたインド型に対しては、高い感染予防効果を期待することはできません。米国において、2回のワクチン接種を受けながら感染してしまうブレークスルー感染の頻度は、医療従事者では0.01%と報告され、非常に低い頻度でした。しかし、この結果は、世界的な流行の主体がインド型に変化する前に得られたもので、現在は状況が変わっています。ワクチンを接種していても、新たなインド型には感染してしまう可能性があるのは、イスラエルや英国の現状が示している通りです。しかし、今のところインド型に対してはまだ、重症化するリスク、死亡するリスクは低く抑えることができているということなのです。
一方、本学の教職員の約4人に1人はワクチン接種を受けていません。なんとなく心配という皆さんには、上述の通り、ワクチンの効果と副反応、学外実習受け入れ医療機関の状況などをよく説明した上で、接種を受けて欲しいとお願いしているところです。ワクチンを2回接種していても、インド型に感染して、しかもほぼ無症状である人たちが本学に入構して、ワクチン接種を受けていない人たちと接触すれば、この人たちが感染する恐れがあります。本学には、ワクチンが不安で、心配で接種を受けなかったという人たちばかりではなく、アレルギー反応の既往などのために接種を見合わせた人たちもいます。大学内では、誰がどのような理由で接種を受けていないのかという個人情報を開示することはできません。
新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは人類が初めて実用化したワクチンであるために、これから課題となる論点が残されています。それは接種を受けた人たちにどれくらいの割合で十分なウイルス中和抗体が作られ、それがどれくらいの期間保たれるのかということです。例えばB型肝炎ウイルスワクチンは、免疫反応の仕組みの個人差によって、何度抗原を接種しても抗体ができてこない人が日本人の約1割いることがわかっています(ワクチン開発当時の情報ですので、今は改善されているかもしれませんが)。
ファイザー製の感染予防効果は95%、モデルナ製は94%という非常に高い数値が当初は出ていましたので、今回開発されたmRNAワクチンでは、抗体ができないという比率は非常に低いのかもしれません。今後は中和抗体の定量を進めて、ワクチン接種後には確実に抗体が産生されていることを確かめ、この抗体がどれくらいの期間保たれるのかを明らかにした上で、3回目の接種の準備を始める必要があります。中和抗体の量はいずれ減少しますので、「今回、2回のワクチン接種を終えたので、今後は心配ない」というわけにはいきません。
新型コロナウイルスでは、月2回程度の頻度で変異が生じるとされていますので、今後も新たな変異株が間違いなく登場してきますし、現在のワクチンでは十分な効果が期待できない、厄介な変異株が生まれる可能性は高いのです。すでにペルーではλ株と呼ばれる新たな変異株が登場し、WHOは6月14日にこれをVOI(variant of interest)に加えて警戒を強めています。現在、特に警戒すべき変異株であるVOC(variant of concern)には、インド型(δ株)までの4種が指定されています。このような状況ですから、mRNAワクチンの利点を生かして、これからもより感染性が高く、重症化しやすい変異株に対するワクチンを開発し、接種を進めていかねばならないのです。
それでは質問2)に対する現時点での回答です。
2回の接種を終了していても、新たな変異株が出現すれば、現行のワクチンの感染予防効果は減弱する可能性があります。しかし、幸いにして現在はまだそれなりの感染予防効果があり、加えて重症化抑止効果は非常に高いとされていますので、中和抗体が一定の値を保っている間は、安全を確保できたと考えることができます。
しかし、ワクチンを接種していても、δ株にも、その後の新たな変異株にも、感染する可能性はあります。しかも、本人はほぼ無症候とすると、感染を意識せずに大学に入構して、ワクチン未接種の皆さんにも、リスクは低いと思いますがワクチン接種を済ませた学内の皆さんにも、感染を広げてしまう可能性が残ることになります。ワクチン接種を2回済ませていても、学内の皆さんにはこれからも、本学が定める基本的な感染防御対策はしっかりと守っていただかねばなりません。
以上を勘案して、本学では、英国のように行動規制を全て撤廃することはできないと現時点では判断しています。「14日ルール」とPCR検査受検による期間短縮措置も当面維持することとします。直近では、δ株の感染急拡大が起きていますが、本学ではまだ2回目の接種が終わっていません。オリンピックが開催中であり、夏季休暇も近づいていますので、感染拡大の防止に特に注力しなければならない状況にあります。現在のワクチンはδ型の重症化抑止効果がまだ非常に高いということが「安心」の唯一の拠り所ですが、これも「今のところは安心」であって、次の新たな変異株にも当てはまるとは限りません。
新型コロナウイルスでも、流行する変異株によってはワクチンの追加接種が必要になります。実際、ファイザー社はα株のmRNAを用いたワクチンによる3回目の接種を計画しています。インド型に対する新たなワクチンも、臨床治験の準備が進んでいると報道されています。また上述の通り、ペルーではλ株という新たな変異株が出現し、WHOは警戒を強めています。新型コロナウイルスでも結局は、変異株の出現と有効なワクチン開発の「イタチごっこ」が続くことになります。新たな変異株の出現は当然予想されることとして、対策を常に用意していかなければなりません。
7月21日に開催された厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(座長:脇田隆字国立感染症研究所所長)」に京都大学の西浦博教授らが、ワクチン接種が進んだ場合、現在の「濃厚接触者の14日間の自宅待機」を短縮できるかについて報告しています。それによると、2次感染のリスクが5%未満になるまでの期間は、ワクチン未接種では9日、ワクチン接種では、従来株は3日、δ株は6日に短縮し、また、リスクが1%未満になるまでの期間も、ワクチン接種により短縮すると推定されました。現行の「14日ルール」がワクチン接種により緩和される可能性が示唆されるデータですので、今後の検証を待ちたいと思います。
3)ワクチンの副反応で不妊になるか?
パンデミックに倣って、WHOはインフォデミックという言葉を作って、デマ情報に惑わされないよう注意を促しています。しかし、ネット上では「専門家」も、そうでない人たちもさまざまな意見を発信しています。「専門家」の意見も一致しているわけではなく、PCR検査を拡大すべきかの議論の時のように、意図的な誘導もあります(本年1月号の学長室からで、アジア・パシフィック・イニシアティブ編「新型コロナ対応民間臨時調査会調査・検証報告書」、ディスカヴァー・トゥエンティワン、東京、2020/10/25を紹介しています)ので、一般の皆さんには何が正しく、何がフェイクなのか、判断できなくなっていると思います。そこで「こびナビ」という、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供することを目的として、2021年2月に開設されたサイト(www.covnavi.jp)を紹介してきました。Q&A方式で医学的な情報が引用文献をつけて的確に提供されていると思いますので、改めてご紹介します。
今回使用されているmRNAワクチンは人類史上初めて実用化されたものですが、すでに1億人を超える人たちが接種を受けていますので、短期的な副反応として大きな問題は生じていないと言えると思います。しかし、中期的・長期的な副反応については、人類の誰も経験がありませんので、正確にはわからないとしか言えません。ワクチン接種を受けることによるメリットと、予想されるデメリットを勘案して、対応を決める他はないのです。しかし、ワクチンの副反応の大半は接種後6週間以内に起こるとされていますので、これまでの世界的な接種状況からは、予期せぬ副反応が中長期的な観察によって初めて確認されるという可能性は低いと考えてよいと思います。
デングー熱という、わが国でも南西諸島を中心にみられるウイルス感染症では、開発されたワクチンの接種によって、ウイルスの病原性を高めてしまう抗体が産生されることが明らかになりました。このためフィリピンでは、ワクチン接種後に実際に感染した人たちが重症化する「抗体依存性感染増強」という現象が起きてしまいました。この事例は、ワクチン開発の失敗例として記録されていますが、新型コロナウイルスでも同様の作用を持つ抗体が産生されるという報告がありますので、ワクチン接種後も、経過を慎重に追跡する必要があるのです。
世界的には、アデノウイルスベクターを利用するタイプのアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けた若い世代に、血栓塞栓症、心筋症、Guillain-Barre症候群などの合併が報告されています。いずれも頻度は非常に低く、一方、ワクチンの感染予防効果は非常に高かったので、WHOや欧州医薬品庁はメリットがリスクを上回るとして接種を推奨していますが、ヨーロッパでは国によって対応を任せています。デンマークとノルウェーはアストラゼネカ製ワクチンの使用を停止し、フランスは55歳以上、ドイツ・イタリアは60歳以上に使用しており、本家の英国は40歳以上への使用を推奨しています。わが国でもファイザー製とモデルナ製の輸入が進まず、ワクチンが不足する状況が続けば、アストラゼネカ製の使用が改めて検討される可能性があります。
それでは、質問3)に対する回答です。
質問3)を支持するエビデンスはありませんので、現時点ではこれはデマ情報と判断します。ネット社会では、正しい情報であるかを判断することは本当に難しいと思います。しかも、日本国民のワクチンに対する信頼性(安全性、重要性、有効性)は世界最低のレベルであると報告されたのは上述の通りです。米国のような反ワクチン活動がわが国でも活発になり、政府が対応を誤れば、新型コロナウイルス感染症に対して現時点では唯一の有効な対策であるワクチン接種も、HPVワクチンと同じ経緯を辿ってしまう可能性があり得ます。
どのような人たちがワクチン接種を受けないと判断しているかを調査した報告は複数ありますが、若い世代と女性に多いという結果が共通しています。当初は若い世代の感染者が少なかったので、若い世代は「自分たちの問題ではない」と受け止めて、その後も無関心である可能性があります。また、本学にも届いていますが、ネット上では、ワクチン接種を受けると「不妊になる」、「流産する」、「ワクチンにはマイクロチップが埋め込まれている」、「遺伝子情報が書き換えられる」などのような「陰謀論者」の主張も、さらには医師の立場で反ワクチン論を展開する人の主張も、次々と引用されて拡散していきます。
米国でワクチン接種が進んでいる順に50州を並べると、上位には民主党支持者が多い州、下位には共和党・トランプ支持者が多い州がずらっと並び、きれいに分断されていることがわかります。トランプ前大統領自身はワクチン接種を受けたようですが、ワクチンを政治的な駆け引きの手段にしてしまいました。わが国では、このような国民の分断を起こしてはなりません。
7月21日、厚労省は副反応検討合同部会で、わが国でワクチン接種後に死亡した人が総計751人になり、このうち「ワクチン接種と死亡との因果関係を評価できない」と判断されたのが600人あまりと明らかにしました。しかし、この説明では十分とは言えず、大半が「因果関係を評価できない」では納得できないという人が多いのではないでしょうか。
日本人の2020年度の年間死者数は1,384,544人ですから、1日あたり3793人が亡くなっていることになります。ワクチン接種後の751人の死亡がこの数値を上昇させているのかを解析し、不安を感ずる人たちに十分な説明を繰り返す必要があります。ワクチンへの信頼性が世界最低レベルであることを踏まえ、厚労省は一層丁寧な情報公開と説明を続け、ワクチン接種への不安の解消に努めなければなりません。
今回のメッセージに対してご質問、ご意見がありましたら、直接私宛てにお送りください。次の機会にまとめてお返事しますので、宜しくお願いいたします。